学ぶ
猫の腎臓病では何が損傷するのでしょうか?猫の腎臓を守るということの意味 ― 第1回

こんにちは。Greycoat Researchで猫の腎臓の健康と老化を研究しているシン・ホチョル博士、通称「シン博士」です。
私はがんと免疫学の研究で博士号を取得し、現在はその経験を生かして、猫がより長く健康に過ごすための方法を研究しています。
「シン博士と読む論文」では、猫の健康に関する研究を一緒に読み解きます。仕組みや実際に得られた結果、それが猫にとってどのような意味を持つ可能性があるのかを少し詳しく見ていきます。難しい用語はその都度説明します。
ルルと一緒に今日の論文を開いてみましょう。

< 3文要約 >
慢性腎臓病(CKD)の猫の腎組織を調べた研究では、病期が進んだ群ほど組織損傷がおおむね重度でした。
ただし損傷の種類ごとに同じパターンが見られたわけではなく、ろ過構造の損傷、細胞障害、炎症、瘢痕化をそれぞれ調べる必要がありました。
Greycoat Researchの製品設計は、猫の腎臓内で何が起こるかを理解し、どの栄養成分が役割を果たす可能性があるかを考えることから始まります。
< はじめに — 「腎臓の損傷」とは具体的に何でしょうか? >
これまでレスベラトロール、ケルセチン、CoQ10などの栄養成分を個別に見てきました。CoQ10で成分ごとの「ニュートラシューティカル深掘り」シリーズは終わりです。
化合物は異なっていても、炎症の調節、細胞損傷の抑制、エネルギー産生のサポートといったテーマが繰り返し現れました。研究を追ううちに、もう一つの問いが生まれました。
「腎臓病の猫の腎臓の中では、実際に何が起きているのでしょうか?」
今回はそこから始めます。これまでは各成分に何ができる可能性があるかを見てきました。これからは猫の腎臓の何がうまく働かなくなり、研究者は何を変えようとしているのかを追っていきます。
最初に顕微鏡で見た腎組織を調べます。その後、血液検査から分かること、体重の変化、食事を変えた研究で起きたことを見ていきます。さらに腎細胞のエネルギー利用と老化、腸と腎臓の関係へ進みます。
研究者がなぜその問いを選び、各研究がそれ以前の知見に何を加えたのかも考えます。中心に置くのは猫の研究です。必要に応じて人やマウスの研究も取り上げ、共通点と相違点、猫の理解にどのように役立つ可能性があるかを見ていきます。
シリーズを通して問い続けることがあります。
「猫の腎臓を守ると言うとき、私たちは実際に何を守ろうとしているのでしょうか?」
第1回は身近な血液検査結果の数値から始めましょう。
動物病院で次のような説明を聞いたことがあるかもしれません。
「猫のクレアチニンが上がっています」
「慢性腎臓病のステージ2と判断します」
これらは異常があることを示します。しかし、腎臓のどの部分が損傷し、その損傷はどのような姿なのでしょうか。
その前に、血液検査が何を教えてくれるのかを確認しましょう。
クレアチニンは体内で作られ、主に腎臓から排泄される物質です。腎臓が十分にろ過できなくなると、血液中により多く残ることがあります。そのため血中クレアチニン値は腎機能の評価に使われます。血液から物質をどの程度除去できているかを間接的に示す検査です。
しかし血液中にクレアチニンがどれだけ残っているかを知ることと、腎組織のどこが傷ついているかを知ることは違います。この数値だけでは、ろ過構造が変化したか、その先の細胞が傷ついたか、間に瘢痕組織が蓄積したかは分かりません。
今日は血液検査表から顕微鏡へ視点を移します。
病期が異なる猫の腎臓を調べると、どのような違いが見えるでしょうか。

< 背景 — 腎臓はろ過した後、必要な物質を回収します >
腎臓はフィルターだとよく説明されます。それは正しいのですが、ろ過だけで役割が終わるわけではありません。
血液から物質をろ過し、体に必要な物質を再び取り込むという二つの段階があります。
1. 糸球体:ろ過が始まる場所
腎臓には小さな血管が集まった微細な構造があります。一つを糸球体(glomerulus)と呼び、英語の複数形はglomeruliです。
血液が通過すると水分や小さな物質の一部が血管からろ過されます。体外に排出すべき老廃物だけでなく、水やブドウ糖など必要な物質も含まれます。糸球体は不要なものだけを選別するわけではありません。
ろ過された液体がすべて尿として出たらどうなるでしょう。老廃物とともに有用な物質も失われます。そこで次の段階が必要です。
2. 尿細管:有用な物質を回収する場所
糸球体でろ過された液体は尿細管(tubule)という細い管に入ります。管の内側の細胞が水分と有用な物質を取り込み、血液へ戻します。
最終的に尿として排出される液体は、この回収と調節を経ています。腎臓が正常に働くには、糸球体が適切にろ過し、尿細管が必要な物質を回収することが必要です。
そのため尿細管細胞の損傷も重要です。フィルターが機能していても、次の段階がうまく働かなければ十分ではありません。
3. 間質:尿細管の間にある支持組織
尿細管は腎臓の中にばらばらに浮かんでいるわけではありません。間には支える組織があり、これを間質(interstitium)と呼びます。
今日の論文では、この組織の炎症や瘢痕化も調べています。結果を読むときは、ろ過する糸球体、有用な物質を回収する尿細管、それらを支える組織の三つを覚えておいてください。

< 今日の論文 — 研究者は何を比較したのでしょうか? >
今回の論文はMcLelandらが2015年にVeterinary Pathologyで発表しました。問いは次の通りです。
「血液検査と臨床情報で判定した腎臓病の病期は、腎組織に見られる損傷とどの程度一致するか?」
病期(stage)は病気を分類する方法です。猫の慢性腎臓病(CKD)は国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の基準でステージ1~4に分けられます。まずCKDと診断し、その後、猫の状態が安定しているときの反復検査とその他の情報で病期を評価します。病期分類は患者の状態を把握し、ケアの方針を考えるのに役立ちます。
研究者らは2000~2013年の診療記録と死後に採取した腎組織を調べました。CKDの猫46頭と、血液検査で窒素性老廃物の増加が認められなかった比較群21頭が含まれました。研究のために安楽死させられた猫はいません。
生前の検査結果と死後に調べた腎組織という二つの情報を並べました。
一方では反復測定したクレアチニン値と臨床情報で病期を判定しました。他方では獣医病理学者2名が顕微鏡で組織を調べ、損傷した部位と状態を評価しました。そして病期ごとの組織所見を比較しました。

二つの所見を詳しく見ていきましょう。
< 第1の結果 — 広範囲に瘢痕化したろ過構造が多く見られました >
糸球体は血液をろ過する小さな血管の集まりだと説明しました。
正常な構造が瘢痕のような物質に置き換わることがあります。これを糸球体硬化症と呼びます。研究者らは、調べた糸球体のうち広範囲に瘢痕化したものの割合を数えました。

この割合は具体的に何を示すのでしょうか。
腎臓全体の損傷面積を測ったのではありません。観察した糸球体のうち広範囲に瘢痕化したものの割合です。グラフは各病期群でのその割合の平均を示します。ステージ4群の25.7%は、腎機能が25.7%低下したという意味ではありません。糸球体は腎臓の働きを担う構造の一部分です。
重要なのは、病期が進んだ群ほど広範囲に瘢痕化した糸球体の割合が高かったことです。血液検査で分類された病期の違いが、腎臓の構造にも反映されていました。
他の部分も同じパターンだったのでしょうか。
< 第2の結果 — 炎症と瘢痕化は同じ違いを示しませんでした >
まずここでの「瘢痕化」の意味を考えましょう。
組織には細胞だけでなく、構造を支えるコラーゲンなどの物質もあります。これらが細胞間に過剰に蓄積することを線維化(fibrosis)と呼びます。腎組織の瘢痕化を評価するときは、線維化に加え、尿細管が縮小・消失する変化なども含まれることがあります。
炎症は組織に集まった炎症細胞を見るなど別の方法で評価します。尿細管の障害は、管の内側の細胞の変化です。これらは同じ腎臓に見られても同じものを測っているわけではありません。
では、ステージ2とステージ3の猫を比較するとどうだったでしょうか。
間質の炎症と尿細管細胞の損傷はステージ3群でより重度でした。しかし瘢痕化のスコアには統計学的に有意な差が認められませんでした。
ステージ2と3で瘢痕の量が同じだったという意味ではありません。一部の損傷には差が検出されましたが、別の損傷には差が検出されなかったという意味です。

私が興味深いと感じた点です。病気の重症度は病期でまとめられますが、腎臓の内部の変化がすべて病期とともに同じように変化するわけではありません。
「何期か」という問いに加えて、こうも問えます。
「その腎臓ではどの種類の損傷が目立つのでしょうか?」
病期分類は患者の状態を説明し、組織の観察はその状態でどの構造が傷ついたかを示します。同じ病気に対する異なる見方です。
< 注意点 — 同じ猫を継続追跡したのではなく別々の猫を比較しました >
ここで重要な区別があります。
研究者は1頭の猫の腎臓をステージ1、2、3で繰り返し調べたわけではありません。病期別に分けた異なる猫の死後腎組織を比較しました。
したがってステージ3群で炎症が多かったことは、すべての猫がステージ2から3へ進むとき同じ順番で変化するという意味ではありません。炎症が先か、別の損傷が先かも分かりません。
ステージ1群は3頭だけでした。初期の腎臓病で見られる幅広い変化を捉えるには、さらにデータが必要です。

それでも実際の猫で病期と組織損傷を合わせて見られたことで、「腎臓の損傷」という表現をより具体的に理解できました。
< 個人的な考え — 論文を一つずつ、一緒に >
この論文で私が特に注目したのは尿細管とその周辺組織の損傷です。
腎臓をフィルターと考えると糸球体に注目するのは自然です。しかしこの研究では、有用な物質を回収する細胞の損傷と周辺組織の炎症も病期によって異なりました。これらの領域で何が起こるかを理解することは、腎臓を守る研究の重要な部分だと思います。
新しいケア方法を研究するとしましょう。
損傷した尿細管細胞が働き続けるのを助けたいのでしょうか。組織の炎症反応に影響したいのでしょうか。それとも瘢痕組織の蓄積を抑えたいのでしょうか。目標が違えば見るべき結果も変わります。変化したかを判断する前に、何を変えたいのかを具体的にする必要があります。
この問いを持って、以前の栄養成分研究を読み直すことができます。炎症や細胞エネルギーを扱う論文には「猫の腎臓のどこに関係する可能性があるのか?」と問えます。今日見た糸球体、尿細管、周辺組織が、その問いを考えるときの具体的なイメージになればと思います。
Greycoat Researchでも成分を検討し製品を設計するときに同じ問いを立てます。この成分は猫の体でどのような役割を果たす可能性があり、腎臓の健康のために検討する根拠は何でしょうか。
なぜ猫のために各成分を選んだのかを説明できることが大切だと思います。成分の研究だけでなく、摂取する動物への理解も必要です。今日のように実際の猫の腎組織を調べた論文が重要な理由です。
シリーズを通して、私たちがどの所見に注目し、それが栄養ケアや製品設計の考え方にどうつながるかもお伝えします。
今後一緒に読んでいく論文を選びました。今日のような腎臓内部の変化から始め、血液検査で分かること、腎臓病に配慮した食事を与えた研究で起きたこと、腎臓病と老化の関係へ進みます。
研究で分かったことと、私が興味深く感じた点を説明します。読みながら生まれた疑問や聞いてみたいテーマもお知らせください。論文を一つずつ読み、猫の腎臓について理解を深めていきましょう。
その過程でシリーズの問いに、より具体的に答えられるはずです。「猫の腎臓を守ると言うとき、実際に何を守ろうとしているのでしょうか?」
次回は今日登場した線維化に注目します。腎臓に瘢痕組織が蓄積することは分かりました。研究者はなぜ特に注目したのでしょうか。猫の線維化と臨床検査結果を比較した研究を見ていきます。

この記事で扱う知見は、腎臓病の猫で確認された有効性ではなく、関連性、メカニズム、初期の橋渡し研究のエビデンスを反映したものです。サプリメントの使用を始める前には獣医師にご相談ください。
< 参考文献 >
1. McLeland SM, Cianciolo RE, Duncan CG, Quimby JM. A Comparison of Biochemical and Histopathologic Staging in Cats With Chronic Kidney Disease. Veterinary Pathology. 2015;52(3):524–534. doi:10.1177/0300985814561095.
< 著者について >
Hocheol Shin, Ph.D., Greycoat Research
KAIST(韓国科学技術院)生物科学 学士・修士・博士
がん免疫学、腫瘍微小環境、橋渡し腫瘍学を研究し、現在は伴侶動物の健康と長寿の研究に従事しています。
【教育目的の免責事項】
この記事は教育のみを目的とし、専門的な獣医学的助言、診断、治療に代わるものではありません。いかなる疾患の診断、治療、治癒、予防も意図していません。
猫の食事、サプリメント、ケアの内容を変更する前には獣医師にご相談ください。